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2021.4.26

未来へ繋ぐ、循環型農業に見出す新時代

オーガニックが正しいと思ってやってるんだよ。現代農業に中指立ててさ。
野原さんが目指す農業とは、社会で起きている大きな仕組みに対する反骨精神から生まれています。以前管理職として勤めていた会社では、大きな仕組みの中で大勢の人を動かしていた野原さん。人が人として扱われていない状況故に、社内のいじめなど様々な摩擦を目の当たりにしました。

のはら農研塾の基地にて

九州自動車道を植木ICで降りると、国道沿いに一面農地が広がっています。そこから少し南に下ると、すぐに熊本市北区に到着!

国道沿いの賑やかさを後目に、ちょっと入り込むと、ビニールハウス、ビニールハウス、ビニールハウス……。多くのハウスはすでにビニールが取り払われており、来るべきスイカ栽培に備えてか、圃場(ほじょう)が綺麗に整地されてあるところが多く見受けられました。

のはら農研塾付近では、熊本市が誇るもう一つの特産品、ナスのハウスがずらり。既に収穫に至っているような立派なナスがたわわに実っていました。

真夏に植えつけられたナスは、秋の間に枝葉を増やし、冬春の間中、日本全国に向けて出荷されていきます。冬場に皆さんが食べられる夏野菜はこのように九州・四国地方でビニールハウスにて加温栽培されています。

さあ、のはら農研塾に到着です!

大きなガレージ(納屋とは呼び辛い)の奥にお米が山積みになっていますので間違いありません……が、

……スケボー?

明らかにその地域の他の農家とは違った異色の匂いを感じます。

「野原さ~ん、野原さんはいらっしゃいますか~?」

ドーン!野原健史教授登場!

「どうもこんにちは!はじめまして」

そう言って現れたのが野原健史さん。とても気さくで声に力のあるイケメンです。(奥様も美人だった)

「そこに座ってて」

そう言われて通されたガレージ内の雰囲気が、いわゆる農家のそれとはどこか違う…。

たしかに農作業の動線は確保されており、広々と搬入搬出可能な間取りで機能的なのですが、ちらほらと混在している、ワクワクノイズ。農業とは明らかに毛色の違う“遊び”を感じさせるアイテムがそこここに鎮座しておりました。

野原健史の農業経営哲学

さあ、第一回ということで早速、野原さんの農業に対する想いを聞いてみましょう。

「本来俺はアンダーグラウンドの人間だから、こんな風に表に出て主張したくないんだ」

そうは言っても、野原さんの想いはとても強く、彼の中に渦巻く情熱が、次々と言葉に変わって飛び交います。

 

ーーーオーガニックが正しいと思ってやってるんだよ。現代農業に中指立ててさーーー

 

野原さんが目指す農業とは、社会で起きている大きな仕組みに対する反骨精神から生まれています。以前管理職として勤めていた会社では、大きな仕組みの中で大勢の人を動かしていた野原さん。人が人として扱われていない状況故に、社内のいじめなど様々な摩擦を目の当たりにしました。

大勢の管理された人が何人集まったところで、それぞれが歯車になるばかり…。人間ならではの有機的な循環を生み出せていないのでは?ということに懸念が生まれました。

「だからのはら農研塾では今ある7人体制が丁度いいと思っているんです。最大でも10人だね、俺の脳みそのキャパだと。これ以上大きくせんよ。一人一人が自主的に動いてるから、一定の利益を確保さえ出来れば、かえって規模は縮小させることを目標にしてるんです」

この理論、野原さんは自らの体験から見出したものですが、近年の経営学で研究されている、一人の管理者がコントロールできる適切な人数は5~8人、最大でも10人が限度である“span of control”という理論と考え方に完全に一致しています。

同様の発見を提唱している中でも有名なのが、Amazon.comの共同創業者兼会長兼CEO兼社長、ジェフ・ベゾス氏の言う“2枚のピザ理論”です。最適なチーム編成は2枚のピザを食べきれる人数で構成されなくてはならない、という考え方に、のはら農研塾の経営管理指針は概ね一致しています。

野原さんの本質を見抜く力は、将来農業マネジメントの指針の一助になるのかもしれません。

また、現代日本においては、あらゆる社会構造が大きな仕組みの中で流動的に流れているように見えて、その実、人と人との有機的な繋がりは途絶えてしまっているのではないかと野原さんは懸念しています。

大きなシステムが稼働しているからこそ、日本全国に均一化された農産物が流通されている事実はたしかにあります。しかしその裏で、本来の人と人とが繋がり、地域で流通されるべき「循環」が途絶えてしまっているのではないかと考えています。

「もしもこれからハリボテの戦争が始まったとするよ。日本円の価値が下がれば、もう外国の作物は買えなくなる。今は日本円が強いから分からないけどね。もしそうなって、国内消費で回さなきゃいけなくなったらどうするの? そうなると九州だけの自給率はすごく高いんだよね、100%を超えられる恵まれた場所なんだ。そんなとき、俺に何ができるのかっていつも考えてるよ」

「うちの作物は、スイカ以外は全部露地栽培。季節モノは一番人間が欲しているモノなんだよ。夏食べるモノは体を冷やしてくれるし、冬食べるものは温めてくれる…。そして30km圏内が俺の身体にあった食べ物なんだ。重力、風、土、雨、人間の中のGPSが欲しているモノは30km圏内のものなんだよ…。100kmだって言う人もいるし、200kmだって言う人もいるけど、俺は自然条件で種の交換がされる範囲“30km”が妥当じゃないかなと思う」

野原さんが、大きなシステムに対する疑念、反骨心から循環型オーガニックに辿り着いた理由が、こういった主張に垣間見られるような気がします。

未来を創るキーパーソン

野原さんの思い描く未来は壮大なものですが、その視線の先には新しい世界が明確に広がって見えています。

「熊本地震の時、あと数10cm頭を前に出してたら、瓦礫に潰されて死んでたんだよ。一回死んでるんだ。どうせ1回死にかけたなら、なんだってするよ…。俺は矢印なんだ。全部自分で達成できるとは思ってないよ。俺がやっている事を“カッコイイ”と感じてくれる人がどんどん出てくれば、次の世代に繋がるじゃない? そのために生かされたんだと思う。そのために行政にだって働きかけるし、ボランティアも動かすし、アーティストも助けてくれる。」

将来の熊本を、日本を変える為に動いている、小さく、しかしパワフルなムーブメントが、ここ熊本から揺り動かされている、その波動を感じました。

矢印の先を担う人たち

野原さんの話を聞いていると、突然一人の若者が姿を現しました。

「マイチョ!久しぶり!」

彼はのはら農研塾の作業をボランティアで手伝っているスタッフだそうです。普段はサラリーマンとして勤務している傍ら、こうやって農作業の手伝いにくるのだとか。彼も野原さんの“カッコイイ”に触れて集まった内の一人です。将来は実家祖父のいちご農場を受け継ぎ、経営を始めたいと考えていました。

「今は“楽しい”しかありません!」

そう話すマイチョさんは、自信を持ってそう話します。

“楽しい”を育てることが、一番の活力剤なのでしょう。ここで育った彼はゆくゆく、農園を独立経営し、野原さんの思いを継承して未来へ繋いでいってくれることでしょう。

期待を込めて、ガンバレ!と応援したくなります。のはら農研塾の中では、ここでもまた、ヒトの“循環”が起こっているのです。

カライモの収穫

いつまでもガレージで談笑している訳にもいきません。今はカライモ収穫の真っ最中!畑を少し覗いてみましょう。

収穫、収穫……

のはら農研塾のカライモは、農薬、化学肥料、除草剤も一切使用しておりません。芋のツルや雑草を全部手刈りして、機械で一気に掘り上げて収穫します。

野原さんも作業に加担してさらにスピードを上げます。

「この畑は定植の遅れたけん小さかばってん、普段はもっと大きかよ」

そう強く主張する一人の従業員の言葉。のはら農研塾に対する誇り、プライドを強く感じました。


最後の最後、見えなくなるまで作業は続きます。のはら農研塾、アッパレな現場でした!

 

□講師プロフィール

野原健史 (熊本県熊本市/のはら農研塾)

熊本県熊本市の、九州自動車道が切り裂いた大地の片隅に、その農場はある。政令指定都市にも関わらず農地が集中している地域で、周囲にはナスやスイカの栽培圃場(ほじょう)が目立つ。 のはら農研塾代表の野原さんは、“火の国熊本”の男らしい芯の通った言葉にチカラを持つ人物だ。ゆくゆくは農業を、熊本を、日本を動かしていくための、火を付ける着火マンだと言えるでしょう。のはら農研塾では、5haの唐芋(熊本ではさつまいも・かんしょの事をカライモと呼ぶ)、約6haの水稲、ハウス栽培でのスイカ等、計16ha程を利用して無農薬・低農薬での栽培を実践。農薬を使用しない農場としては日本で最大級の規模を誇る。産廃業者の父の元で育った野原さんのスタイルは、「廃棄」された「モノ」を利用し、新しい「モノ」を生み出す循環スタイル。その規模、スケールは見るものを圧倒させる。 また野原さんの魅力は、“カッコイイ”を貫く姿勢にもある。パンクスでスケーターでもある野原さんの元には、日本を代表する“カッコイイ”の体現者たちが次々と訪れている。野原さんを軸にして、新しい「ヒト」の循環をも生み出している。